トンボのような大きな目のキツネ

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前回書いたブログ「知ってるつもり」に続く土方奈美さんの翻訳本を読んだ。「知ってる」より前に出版されたもの。題名は「超予測力」、驚いたことに「知ってる」同様、認知科学の本でさらに内容もそっくりだ。

人や企業は未来を予測し戦略を立てる。なのでその予測の正確さ如何によって人生や業績に大きく影響を及ぼす。ここまでは誰でも考えることだが、この本の優れているところは予測した後の検証だ。予測はするがその結果の検証しない日本人のなんと多いことか!、予測が外れたことを受け入れない、過去のことだ、なんて勝手な理由をつけてその失敗を活かそうとしない。典型的なのは会社で社長が変わると方針が変わる、さらに社長が変わると元に戻る、つまり何も検証しないで同じことを繰り返す。社員も負けずに不毛に精力を注ぐ。

この本は人間はどこまで予測可能かを数ある実験のエビデンスから解き明かそうとする本だ。「知ってる」と似ているといったのは人間の思考回路を二つに区分している点だ。「知ってる」はそれを直感型と熟慮型に分けてるが、「超」はシステム1、システム2に擬える。システム1は物事を即断的、直感的に判断し、またその根拠である証拠の質にとらわれない、システム2は一度自分に立ち返りあらゆる観点から冷静に判断しようとする。システム2を多用しある一定の方法を踏襲すれば超がつくほどに正答率が高まるという予測の指南書だ、一定の方法も書かれている。

本の中でギリシャの詩人の言葉が引用されている。「キツネはたくさんのことを知っているのに対し、ハリネズミはたったひとつの重要なことを知っている」どういうことかというと、ハリネズミは特定の心情に固執する、キツネはより折衷的な専門家。ハリネズミは一つしかないメガネで物事を即断してわかったような気になるシステム1、複数の視点を統合するキツネはシステム2に例えている。もう一つユニークなのは、視点の数の例えにトンボの目を引用していることだ。トンボの目は人間と同じ二つだが表面は片目だけで三万個のレンズで覆われている。何万という情報が常に脳に送られてそれを統合し高速で飛んでいる虫を捕える。なので、ハリネズミのようにいつも一つしかないメガネを通して見る世界観とトンボの目を持ったキツネの世界観では人生観まで変わってくる。これは常に頭に入れておきたい教訓だ、中々実践できないが。

いずれにしても座右にしたい本の一冊だ。前回、文章が長いとご意見をいただいたので今回はこれでおしまい、まだ長いか。
おわり。

2018.7.27
渋谷