37年ぶりに先輩にあった。

京都の学生時代お世話になった先輩に37年ぶりにあった。先輩といっても同じ大学の先輩ではない。当時の大学生の下宿なんてものはどこの大学だかわからないやつが入り乱れていてさながら10軒長屋20軒長屋の感だ。木造アパートの四畳半に自然と人が集まってくる、酒盛りが始まる、話は吉本隆明埴谷雄高岡林信康成田闘争。必然的に友達の友達、またその友達の友達が友達だったりする。先輩も知り合いの知り合いの知り合いで5歳年上の6回生、オレの周りはそんな人が何故か多かった、ひとり遅れてきた青年。

37年ぶりとなるとさすがに先輩も別人、でも懐かしい話に花が咲くと段々とタイムスリップして学生に戻った。大変頭のいい人で芥川賞を目指した本の虫、下宿は寝るところに困るほど本だらけ、さながら古本屋、でもオレにとっては知の巣窟ってとこかな。文学書だったか、哲学書だったか分厚い本からおもむろに一万円札を取り出してよく飲みに連れて行ってもらったものだ。

当時先輩とよく行っていたスナックがある、出町柳から叡電でひとつ目、元田中から徒歩3分、「ヒスイ」っていうスナック。さすがにもう無くなっていたと思っていたが、ところが今回ネットで検索したらヒットした、あまりの懐かしさから行ってみた。

「ヒスイ」は住宅街にポツンと目立たなく存在する、想い出の詰まった店だ。

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開店前に無理やり入れてもらった。マスターは先輩のことをよく覚えていて、というより元々先輩の店、オレのことも段々と思い出してくれた。ママはあまり元気がなかった、食事、化粧の開店前ルーチンをオレが壊したからかもしれない。マスターが言っていたが、最近のお客は何十年ぶりが多くなっているそうだ。現にオレがいた時も40年ぶりという人が来て一曲歌って帰った。ジェームディーンのポスターが人生の半分程の時の流れを感じさせる。

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先輩は京都に10年いたそうだ。大学にもよるが休学制度を使うと12年在学できるそうだが、大学より京都に魅せられた一人だろう、人のことは言えぬ。京都には魔物が住んでいる、というより学生に優しすぎる。学生時代を京都で過ごしたオレらにとってその優しさが京都を離れられない理由かも。

その後、先輩は実家の農業を継がれて、今、米とネギを作っている。何と、30年前に酒を辞めたそうだ、一緒に飲みたかった。でもタバコは健在だ、吉本淳之介ばりの吸い方、カッコいい。時代に勝ったか、負けたか、それとも流されたか、今となってはそんなのどうでもいい、オレの大切な先輩であることに変わりはない。

2018.5.20
京都